「広報とよかわ」2016年9月号(特集)
更新日:2016年9月1日
女性目線の避難所運営を考えよう!
近年起こった東日本大震災、熊本地震では、避難所において、高齢者、障害者などとともに、妊産婦や乳幼児を持つ母親を含めた多数の女性たちへの配慮が課題となりました。避難所では、限られた空間の中で多くの人が生活するため、プライバシーや衛生、物資の供給などについて、女性特有のニーズが十分に配慮されず、心身への大きな負担を感じた女性が多くいたことが報告されています。
今回の特集では、女性にも配慮した避難所運営を進めるため、被災地での現状を報告するとともに、本市での対応策などについてお伝えします。
詳しいことは、防災対策課(89-2194)へ、お問い合わせください。
避難所で生活する女性たち
ここでは、過去の災害において、避難所生活の中で女性が直面した問題と、その背景についてお伝えします。
避難所で女性が抱えた問題
避難生活が長引いた東日本大震災、熊本地震などの避難所において、女性たちはさまざまな問題にぶつかりました。
多くの人が集まり一緒に生活する避難所では、プライバシーが十分に確保されず、女性は心身のストレスを感じていました。着替えや授乳の場所、専用の物干し場などがなく、トイレは、数が不足したため、男女共有で使用することを余儀なくされました。
物資については、下着、生理用品などが不足し、届いても男性が配布することが多く、受け取りにくくなっていました。育児中の女性からは、小児用おむつ、粉ミルク、哺乳瓶などの育児用品の要望が多く出されました。
また、当然のように女性が食事の準備や清掃などを割り振られ、性別で仕事の分担が決まったことに負担を感じたことや、女性を狙った犯罪が起きるなど、治安面での不安があったことなども報告されています。
避難所における女性からの要望(複数回答)平成24年内閣府調査(調査対象は、岩手・宮城・福島県の91市町村)
- 更衣室・授乳室、入浴施設 56.0パーセント
- プライバシー確保用仕切 51.6パーセント
- 安全な男女別トイレ 25.3パーセント
- 乳幼児が遊べる空間25.3パーセント
- 母子保健サービス実施 25.3パーセント
- 現地支援の女性ニーズ把握 23.1パーセント
- 乳幼児家庭用エリア 20.9パーセント
- 女性相談員等 17.6パーセント
- 避難所運営の女性の参画 13.2パーセント
- 対暴力・女性相談員等 11.0パーセント
- 対暴力・医療機関等連携 9.9パーセント
- 対暴力・ニーズ把握 8.8パーセント
- 対暴力・運営の女性参画 7.7パーセント
- 対暴力・避難所意見箱 1.1パーセント
女性が苦労した背景
こうした問題を引き起こした背景として、避難所運営の意思決定を行う場に女性が参加していないことが挙げられます。避難所運営は、町内会組織から移行されることが多く、男性中心の役員で構成される傾向にあります。このため、女性からの要望や意見が話題になることが少なく、また、女性が伝えたくても、役員の男性には言いにくいという状況がありました。
このことから、避難所で女性が声を出しやすい環境を整えたり、直接運営に参加するなどして、女性からの要望や意見を取り入れた避難所運営をすることが求められています。
- どこで着替えればいいのかしら?
- 赤ちゃんに授乳したいけど人目が気になって。
- 炊き出しや調理に関することは全て女性の役割なの?
- 生理用品を男性から受け取るのはちょっと。
Interview 避難所生活での女性たちの苦悩
宮城県南三陸町地域包括支援センター 所長 工藤初恵さん
東日本大震災で被災した南三陸町の避難所で、保健師として、被災者の心身のケアを担当
突然の大災害で、住民の方々は着の身着のままやっとの思いで、体育館に避難してきました。当初は、電気もなく、着替えもなく、食べることが最優先でした。
日数が経過し、避難所の生活が日常化してくると、女性は、プライバシーの問題で一番苦労していました。赤ちゃんがいるお母さんの授乳や、女性の着替えは、やはり人目が気になります。専用の場所がないため、体育館の隅や、倉庫などの暗い中でするしかなく、落ち着いてできる状態ではありませんでした。洗濯も、下着などを避難所に干すことをためらい、町外のコインランドリーを利用しようと、遠方まで出掛ける方もいました。
女性たちは、こうした苦悩を感じながらも、「非常時だから仕方がない」として、不満を訴えることなく避難所の生活を続けていました。
これらを改善するため、女性たちが集まって要望や意見を気軽に出し合い、体制づくりが進められるとよかったのではないかと感じています。
女性の胸の内を聞く 避難所では言いにくい悩み
女性が避難所で生活することになった場合、衛生や健康、美容面などで人には言いにくい女性特有の悩みや困り事が生じます。
清潔が保てない
水の使用が制限されることで、手洗いや洗顔ができなくなったり、生理中にお風呂に入れなくなったりするなど、清潔を保てないと、肌が荒れがちになり、不快感にもつながります。
食事の偏りが体調に影響
避難所では、食中毒防止のため、保存食が中心となります。もともと、めまいや貧血が生じやすい女性は、食事の偏りから、足がつるなどの症状が出たり、ビタミン不足から、肌荒れや便秘になりがちです。
身だしなみが気になる
保湿するための化粧水やクリームがないと、肌の荒れが気になります。また、華美なものではなくても、化粧をせずに、人前へ出ることに抵抗を感じます。
女性たちの本音を生かす
市では、女性の視点を取り入れた避難所運営について、「どんなことに困るか」「何に気をつけたいか」を話し合うため、子育てや男女共同参画、防災の分野などで活躍する女性5人をメンバーとして検討会を行いました。
検討会参加者(敬称略)
豊川共生ネットみらい・杉浦綾子/市保健師・松本絢/被災地派遣市職員・岡田啓子/とよかわ子育てネット・伊奈克美/豊川防災ボランティアコーディネーターの会・河合美恵子
女性の率直な意見とは
- プライバシーなど、避難所の環境をどう配慮したらよいか
伊奈 災害発生直後は物資中心、数日経つとプライバシーや衛生中心といったように、必要な支援が違うことに気をつけたい。
河合 個人のポリシーを否定しないことが大事で、例えば家の中で、必ずお化粧をする人にとっては、化粧品も避難所で必需品になると思う。
- 心身の健康にどう配慮したらよいか
松本 妊娠初期など、見て分からない要配慮者には、マタニティマークをつけるなど、視覚で示す必要があると思う。
杉浦 更衣室兼授乳室で、ほっとできるように飴を置いたり、励ましの言葉を書いた張り紙を貼ってはどうか。
- 女性目線で物資の配布をするには
松本 防災倉庫で、生理用品を見たときに「これは誰からもらうのか」と思った。女性に特有の物は女性から配るように配慮してほしい。
- 女性へのDVや犯罪を防ぐには
松本 巡回することが大事だと思う。
河合 トイレや暗い廊下などには、電気が欲しい。
- 女性の意見を避難所運営に生かすには
河合 女性が検討の場に参加できるようにしてほしい。
杉浦 女性だけの意見交換会ができるといい。
松本 女性リーダーの存在が大事だと思う。
- 今の避難所運営マニュアルをどう思う
岡田 マニュアルは、女性について十分に配慮されていない。また、見やすく、自主防災会向けのものにしてほしい。
Topics 女性だから持っておきたいこんなモノ
災害時に備えた防災用品として、女性向けの必需品を加えておくと安心です。生理用品や下着の他、体を拭くなど衛生用品としても使えるウエットシート、肌をケアするための保湿クリームなど、自分に必要なものを準備しておきましょう。
携帯ビデ、ウエットシート、カップ付きタンクトップ、下着、サニタリーショーツ、ナプキン、おりものシート、尿もれパット、髪ゴム、鏡、リップクリーム、化粧水、保湿クリーム
便利なアイテム
ウエットシート1枚で全身を拭くことができます。
片面を使って顔、首、脇の下の順に、上半身から下半身を拭きます。足まで拭いたら、シートを裏返して指に巻きつけて頭皮を拭きます。
女性に配慮した避難所運営を進めます
防災対策監 飛田哲孝
この地方で発生が予想されている南海トラフ巨大地震に対しても、平時から女性に配慮した避難所の体制を整えておくことが必要です。
市では、避難所生活について、先の検討会などの意見を踏まえて、女性目線の視点を取り入れた豊川市避難所運営マニュアルの改定に取り組んでいるところです。また、各防災倉庫にプライバシーを配慮するための組み立て式更衣室兼授乳室の配備を増やしたり、衛生面に配慮した使い捨て哺乳瓶を備蓄したりすることとしました。
避難所において女性が抱える問題を改善していくためには、男性からも理解を得ることが重要です。自主防災会などでも、こうした意識を持って日ごろの訓練や会議を行うとともに、女性の皆さんにも積極的に参加していただき、意見を取り入れていくことがたいせつです。
災害時の混乱やストレスなどを軽減するため、今後も引き続き、備蓄品の整備や女性に配慮した避難所運営の体制づくりを進めていきますので、ご理解とご協力をお願いします。