障がい児とその家族が楽しく暮らせるように
株式会社NEWSTA代表取締役CEO 鈴木碩子
豊川市出身で、連続起業家として東京都内で活躍中の鈴木碩子さん。さまざまな仕事を経験してIT業界でのキャリアを積み上げた。筋ジストロフィーの長男を授かったのをきっかけに、障がい児の家族に寄り添ったサイトやアプリ「ファミケア」を運営する会社を設立。1年余りで全国1万家族とつながり、月間利用者数は約20万人を超え、現在ファミケアは障がい児家族にとって欠かせないリソースとなりつつある。
2024年12月には豊川市役所で、職員向けの広報意識改革研修の講師を務めた鈴木さん。これまでの道のりを振り返ってもらった。
ドイツで学んだ、心地よい暮らしと自立心
小さいころから活発で、歌をうたったり、ピアノを弾いたりするのが好きだった。豊川市立東部中学校では吹奏楽部に所属し、学級委員などの活躍もした。
国府高校2年生の時、父の海外転勤をきっかけに1年間ドイツに行き、国外に暮らす日本人の子どもたちが通う全寮制の「ドイツ桐蔭学園」に留学。ワクワクしてスタートした初めての海外、初の寮生活だったが、日本で当たり前に毎日使っていた携帯電話が使えず、娯楽のない状況にぼう然。「毎日何をして過ごせばいいの⁉」と慣れない日々が待っていた。ところが生活に慣れてくると、放課後、クラスメイトと音楽やスポーツをしながら過ごす生活が不思議と心地よく思えるようになった。日曜日にゆったりと散歩するのが楽しいなんて、ずっと日本の女子高生でいたら思いつかなかったかもしれない。
海外で1年間過ごした経験で価値観も広がり、自立心が芽生え、今の生活にも大きく影響する経験となった。高校3年生では学校の方針で、横浜の本校で受験勉強に励んだ。家族はドイツを生活拠点としていたため、生活や金銭の自己管理をしながら、自活力も身につけていった。
幼少期。右が鈴木さん、左が鈴木さんの妹

ドイツの学校で

ホームステイ先の女の子と
東日本大震災きっかけ。自分の力で社会を歩みたい
日本と海外の文化の違いを感じ「それぞれヨーロッパで見たような‟良いもの”を皆に届けたい。流通をよくすることでさまざまな課題が解決できるのでは」という思いを胸に、大学は、日本大学商学部でビジネスを学んだ。ゼミ活動をしたり、サッカー部のマネージャーをしたり、学友と旅行に行ったりと、大学生活を満喫する中で、卒業したら就職して結婚して…と平凡な未来を想像した。
「転機が訪れたのは20歳の時。東日本大震災がきっかけだ。テレビで津波の映像を見て、一瞬で全てがなくなるという現実を目の当たりにし、「もし自分たちの身に起きたらどうしよう。いったい自分には何ができるのか。自分は今のままでいいのか」。今の自分にできることはまず自分の手で稼げる力をつけることと思い、「同級生たちが卒業する2年後までに成果を出す」を目標に走り出したのだった。
それまで社会で働いたのは、カフェのバイト経験程度。だからこそ思い切ってさまざまな世界に飛び込み、多くのことを学んだ。その中で同い年の起業家と知り合い、ビジネスメディアを運営するスタートアップ企業の仕事をしたことから、スタートアップの世界に。その会社の1号社員になった。企業やビジネスパーソンに向けて業界ニュースや専門知識を発信するウェブメディアで、サイトの記事を制作・管理するコンテンツチームのマネージャーを任された。とにかくトライ&エラーを繰り返し、情報収集と勉強に明け暮れた。チームのノルマは、一日100本のコンテンツ掲載。寝る間もなく働き続けた。その後も大手企業での経験などを積み、自分の力で着実にビジネススキルを積み重ねていった。

スタートアップの世界に足を踏み入れたころ
25歳で会社設立。女性が働きやすい仕組みで成果
20代前半はとにかく元気に、人の2倍以上がむしゃらにがんばった。その過程で「もっと人々が自分の特技や経験を活かし、自分のライフスタイルに合わせて働くことはできないのか」と考えるようになり、2017年25歳の時に、Webメディアの制作や企業のPR支援をする「株式会社ism(イズム)」を設立。コンセプトは「もっと、わたしらしく」だ。社員・スタッフ約50人はほとんどが女性で、コミュニケーションを目的に顔を合わせる定期機会以外はフルリモート、フルフレックス。地方在住でも、結婚や出産を経ても働けるような仕組みづくりに力を入れ、都内渋谷の道玄坂に女性専用のコワーキングスペースも開設した。仕事は順調で毎年約200%の成長を遂げていた。

株式会社ismを設立

株式会社ismのコワーキング
2020年には、国内最大級のプレスリリース配信プラットフォームで、同郷・豊橋市出身の山口拓己さんが代表を務める「株式会社PRTIMES(ピーアールタイムズ)」に自身の運営する会社を売却し、同社のプロダクト本部長に就任した。組織づくりやプロダクト開発などに携わり、キャリアを積み重ねた。
結婚そして出産。長男の難病で、情報集めの大変さ実感
プライベートでは2019年に結婚し、28歳で男児を出産。第1子が、全身の筋力がゆっくりと低下していく難病である「福山型先天性筋ジストロフィー」と診断された。数年後には義母ががんを患ったこともあり、同居ではないものの一時的に家庭内でダブルでケアや配慮が必要な状態になった。仕事と生活の両立を考え、キャリアを考え直すタイミングとなった。

夫、長男と一緒に

長男のあちょくん
一度仕事を辞め、子どもの療育などに時間を割きつつ、自身のすべきことを見つめ直す期間となった。そんな中で、乳児から育っていく重症心身障がい児の息子のケアや育児として共に楽しむ方法を探すことに徐々に難しさを感じるようになった。デパートの子ども用品売り場に行っても、マッチするものがなかなかなく、難しい制度や補助具を自分で調べて覚えていかなければいけない現状に直面した。不便なことが当たり前になり「それはしょうがないよね」「良くするのは難しいよね」というのが当たり前になっていることが悔しかった。
「世の中には素晴らしいサービスを提供する方々や、活用すると便利で楽しくなるものはたくさんある。サービスと、サービスを探している人たちを結びつけるプラットホームが必要だ」。こうして新たな挑戦に臨むことになった。

PR TIMESの送別会で
新会社設立。情報共有・相談サイト「ファミケア」開設
同年に「株式会社NEWSTA」を設立し、2023年には疾病・障がい児家族のための情報共有・相談サイト「ファミケア」をスタートした。障害の種類にかかわらず幅広く、家族が知りたい情報を徹底的に網羅したサイトとしては国内最大級で、家族同士の出会いの場、相談の場にもなっている。そして、今、この取り組みが社会を変えつつあるという手ごたえを感じている。旅行、家づくり、事業所とのマッチングなど、健常者のプラットフォームとして当たり前にあるものを、障がい児家族のために作っていきたい。ITによる利用者や事業者の負担軽減を目指して開拓し、生活しづらさを感じている人たちの楽しみを増やすことを叶えたいと思う。
2025年2月には障がい児が使える支援をすべて探せる検索ポータルサイトの提供を開始。行政とも連携することで障がい児に関わる人々の生活の変化を起こしている。
いつか故郷の豊川市でも、このような取り組みが実現できたらうれしい。

ファミケアのイベント

ファミケアは疾患や障害などの特性を持った子と家族の「楽しい!」を生み出すブランド

都会暮らしの中、感じる「豊川で生まれ育って良かった」
30代になり、自分のスキルや経験で地域に貢献する活動を積極的に行うと決めた。小さなころから見ていた、地域に貢献する祖父母の姿を尊敬している。子どものころ、そんな祖父らと豊川市民まつりや桜ヶ丘ミュージアムのイベントなど多くの場所に出かけた。また実家の近くにある豊川稲荷は身近な場所で、良い思い出がたくさんある。
今は豊川を離れているけれど、地元の友達はいつまでも家族のような存在だ。そんな彼らと一緒に過ごした市内の街並みや学校、イベント、お店など、かけがえのない風景をいつまでも大切にしていきたい。都会暮らしが長くとも、「自分は豊川で生まれ育って本当に良かったなあ」と思う気持ちは常にそこにある。
出身の豊川東部中学校の友人たち

豊川市役所の職員向け研修の講師を務めた時
DATA

鈴木 碩子(すずきせきこ)
株式会社NEWSTA 代表取締役CEO
愛知県豊川市出身の連続起業家。スタートアップ1号社員や大手IT企業での勤務を経て、2017年「もっと、わたしらしく」をビジョンに掲げる株式会社ismを設立。2020年に同社を株式会社 PR TIMESへ売却後、プロダクト本部長としてPMやデザイナーによるプロダクトチームを立ち上げる。2022年に株式会社NEWSTAを新たに設立。障がい児家族×IT領域の育児ブランド「ファミケア」を運営。全国1万家族とつながる障がい児家族向けのポータルサイトや相談QAアプリ、支援事業所の検索サービスを提供。先天性福山型筋ジストロフィーの息子を育てる2児の母。
X:https://x.com/sekinyams2
株式会社NEWSTA:https://newsta.co.jp
ファミケア:https://famicare.jp
この記事に関するお問い合わせ先
企画部 元気なとよかわ発信課
所在地:442-8601
愛知県豊川市諏訪1丁目1番地
電話番号:0533-95-0260
ファックス番号:0533-89-2125
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更新日:2025年07月07日