おいしい、の一言のために。「音羽米」とともに
音羽米を育てる研究会・副会長 小野卓也
豊川市の豊かな自然が広がる音羽地区。この地で、土と水、そして人々の情熱が一体となって育まれる特別な米がある。その名も「音羽米」。単なるブランド米ではない、その一粒一粒には、生産者と消費者の思いが込められている。
環境にやさしく、おいしい音羽米の米づくりは音羽地域の生産者からなる「音羽米を育てる研究会」(鈴木晋示会長)なしでは語れない。現在、副会長を務める小野卓也さんに話を聞いた。
土と水、そして人の想いが育む、豊川の恵み「音羽米」
「安全安心で、おいしい米をつくりたい」という共通の想いを持つ農家たちが集まって発足したのが、この「音羽米を育てる研究会」だ。伝統的な農法に安住することなく、常に「どうすればもっとおいしくなるか」「どうすれば環境にやさしい米づくりができるか」を問い続け、最新の科学技術を導入し、定期的に土壌分析を行うのはもちろんのこと、栽培方法の改善や、環境保全型農業の実践にも積極的に取り組んでいる。

こだわりの音羽米
専業農家の長男 農協を経てライスセンター運営へ
小野さんが生まれ育ったのは、旧音羽町長沢(現・豊川市長沢町)。家の周りには田んぼが広がり、物心ついた頃にはもう土にまみれて遊んでいた。家業は専業農家で、米をはじめ、イチゴや巨峰を栽培。2人兄弟の長男だったので、農家を継ぐのは自分にとって自然な流れだった。安城農林高校で農業の基礎を学び、卒業後は社会勉強を兼ねて農協に就職。その組織で働くうちに、自分のやりたいこととのギャップを感じるようになった。
そんな時に大きな転機が訪れた。農協が運営していたライスセンターが、施設の老朽化で閉鎖されることになったのだ。「センターがなくなったら、俺たちの米はどこへ持っていけばいいんだ」。仲間たちの不安な声が聞こえてきて、じっとしていられなくなった。「建物を使わせてくれるなら、自分が引き継ぐ」。そう腹をくくったのは、今からもう30年近く前のことになる。

小さい頃。トラクターに乗った小野さん
主婦の声から生まれた減農薬・有機肥料米
4年ほどで農協を退職。当時は米づくりだけではなくイチゴや巨峰も作っていたが、ライスセンターの運営に集中するために、米づくり一本に絞ることにした。地域の農家から米を預かり、乾燥させ、もみすり、選別を行うのがライスセンターの仕事だ。この地域の米づくりを支える、大きな責任を背負った瞬間だった。
一方で、音羽米の始まりは、それよりもっと以前、平成が始まったばかりの37年ほど前。主婦グループが訪れ、「子どもたちに、安全・安心なお米を食べさせたい。ゴルフ場もないこの音羽のきれいな水で、できるだけ農薬を減らしたお米を作ってほしい」と熱望されたのがきっかけだ。ゴルフ場からの農薬流出が社会問題になっていた時期、その熱い思いに応える形で、数人の農家が手探りで、減農薬・有機肥料100%の米づくりをスタートさせ、特別栽培米「音羽米」が生まれた。そして「音羽米を育てる研究会」ができ、県の農業改良普及課の指導も受けながら、土づくりからとことんこだわって栽培。もちろん、簡単なことばかりではない。近年はカメムシが大量発生したり、今まで効いていた除草剤が効かない外来種の雑草が出てきたり、毎年新しい課題が山積みだ。でも、仲間と知恵を出し合い、試行錯誤を重ねることで、なんとか乗り越えてきている。現在は80戸ほどの仲間と共に栽培に取り組んでいる。

鈴木会長の指導で田植え体験をする親子ら
自分たちの力で地域を盛り上げ、活動を続けたい
活動の原動力は、消費者との直接のつながり。音羽米は主に愛知県内の生活クラブに出荷しており、「音羽米を食べる研究会」と名付けられた消費者グループの方々とは、田植えや稲刈り体験、餅つき大会などを通じて長年の付き合いがある。自分たちが丹精込めて育てた米を「おいしいね」と笑顔で食べてくれる姿を見る。その瞬間が、たまらなく嬉しい。
「しかし、農業を取り巻く環境は年々厳しくなっている」と小野さん。会員の高齢化は進み、後継者がいないために耕作放棄地になりかねない田んぼも増えてきた。「このままじゃ、音羽米を守れないかもしれない」。そんな強い危機感から、2024年からは国の「農山漁村発イノベーション推進事業」に挑戦している。音羽米の魅力を、もっとたくさんの人に知ってもらうための活動だ。ワークショップやシンポジウム、イベントなどを開催。稲刈り体験や音羽米食べ放題のイベントでは、自分たちの想像をはるかに超えるお客さんが訪れ、大盛況。この手応えは大きな自信になった。
将来に向けたテーマは、「補助金に頼るのではなく、自分たちの力でいかに地域を盛り上げ、活動を続けていくか」。そのための仕組みづくりが必要と考えている。現在、取り組みのひとつとして、市内の飲食店と協力し、音羽米を使った新しい加工品づくりに挑戦中だ。

音羽米の生米パン

音羽まつりのにぎわい

音羽米のしめ縄づくり体験
これからも安全安心な米づくりを
小野さんは今年から、この研究会の副会長を務めることになった。会長である農業法人「こだわり農場鈴木」の鈴木晋示さんと二人三脚で、音羽米の未来を担っていきたいと思っている。守るべき伝統と、変えていくべき革新の両立を見据えながら、これからもこの音羽の地で、安全安心な米をつくり続けていきたい。

豊かな自然の中で育てられている音羽米
DATA
音羽米を育てる研究会
豊川市・音羽地域で、地域に根ざした米づくりに取り組む団体。
会長:鈴木晋示(こだわり農場鈴木) / 副会長:小野卓也
2014年度 環境保全型農業推進コンクールで農林水産省生産局長賞を受賞
2022年 豊川市観光協会とよかわブランド認定
農薬や化学肥料に頼らない環境にやさしい農法で、「音羽米」というブランド米を栽培。あぜに太陽光パネルを設けて米づくり用電力にする先進的な取り組みも行っている。子どもたちの農業体験や、都市住民との交流イベントなども実施しながら、次世代につなぐ活動を続けている。



更新日:2026年01月28日