「広報とよかわ」2016年1月号(MY COLOR)
更新日:2015年12月21日
MY COLOR
きらっと☆とよかわっ!輝くひとVol.10
さまざまな分野で活躍する豊川市出身のトップランナーを紹介します
ささいなことでも感謝できる
それは山でしか味わえないこと
〈アルピニスト〉 稲吉 佑紀さん
平成25年、日本人女性14番目となるエベレストの登頂を果たし、昨年、世界で2番目の標高を誇る「K2」踏破に挑んだ稲吉佑紀さんにお話を伺いました。
子どもの頃から、キャンプや山登りに親しんでいたいた稲吉さん。アルピニストとして、本格的に活動を始めたのは、25歳のとき。剣岳、穂高岳など標高3千メートル級の山々を踏破する中、さらに高い山へ登りたいという思いから、豊橋山岳会に入会。
夢であったエベレストへの挑戦は、30歳のときだった。「登っている時は、苦しさよりも、チャレンジできているということが何よりもうれしかった」と話す。それでも、世界最高峰の登頂は過酷を極めた。標高6千メートルから7千メートルにかけて、徐々に高度を上げながら体を慣らす作業を繰り返す。こうした作業に体が順応せず、頭痛や倦怠感に襲われ、寝ているときでさえ心拍数は100を超える状態が続いた。しかし、この状況下で登頂を果たすも、想像するほどの達成感を得ることはなかった。それは「日常で経験する緊張感をはるかに超える環境にいたため、感情さえも停止した状態になっていた」と振り返る。
そして、昨年6月、さらなる高みを目指す。山頂へのルートはエベレストよりも険しく、多くのアルピニストが命を削り踏破を目指す「非情の山」K2。「同行者が落石により骨折するなど、雪崩や落氷に神経をとがらせる緊迫した局面が続いた」
結果は、登頂断念。天候不順に加え、感染症による体調不良を起こしたことが原因だった。同行するドクターから、下山するように指示をうけた時は、悔しくて涙が止まらなかった。それでも、「できれば来年、もう一度挑戦をしたい。それまでに、体づくりに力を入れていきたい」と気持ちを切り替えている。
K2登山を経て、常に危険と対峙する高所登山の魅力を「極限の環境下では、ささいなことも感謝の気持ちが生まれる。苦しいという感情でさえ楽しいと思うことができる」と語る。
視線の先には、挑戦を待つ、名だたる世界の山々が広がっている。
プロフィール
稲吉 佑紀(いなよし ゆき)
御津南部小学校、御津中学校、御津高校、愛知大学を卒業。2013年、日本人女性14番目となるエベレスト登頂を果たす。現在、豊橋山岳会に在籍